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zoom RSS 「カニ鍋の夜」 (一)

<<   作成日時 : 2017/01/15 17:12   >>

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今さらなんですけど、2003年の旧作です。
季節が頃合なので引っ張り出しました。
バカバカしいので、お聞き流しのほどを。

正月も過ぎ、初めての満月の夜である。
かねてより約束された「鍋を囲む会」があの世柳町の近藤勇の試衛館で開かれた。
今夜の鍋奉行は土方歳三。
近藤が招待したのは、勝海舟、西郷隆盛、坂本竜馬という大物たちである。
過去の遺恨を忘れて、互いの交流を深めようというのが、近藤のねらいだった。

近藤:「さあ、本日は土方が『カニ鍋』をご用意しました。ゆるりとお過ごしくだされ」

近藤はおお張り切りだ。滅多にない大物たちの来客に
前日は床屋に行き、床の間の掛け軸を梅の絵に取替え、今日に備えた。

西郷:「近藤さん、薩摩の芋焼酎を持参いたした。開けてたもんせ」

西郷は風邪をひいて不機嫌だった。鹿児島の温暖な土地に育った西郷は
ひからびたような真冬の江戸が性に合わない。
海舟に引っ張られて、不承不承やって来たという様子でしきりと鼻水をぬぐっている。
土方が大鍋をささげ持って現れた。実は本日の顔ぶれが気に入らない。
しぶしぶ奉行を務めているので、
これまた気乗りのしない風情。
続いて沖田が山盛りのカニの大皿を持ってきた。

竜馬:「おお、これは見事なたらばがにじゃ。こんなでかい奴は初めて見たぜよ」
近藤:「歳が函館から軍艦で品川まで運ばせたのです」

近藤は胸を張って答えた。

海舟:「軍艦を出させたとは、そりゃおおごとだぜ。土方さん、まさか物騒なことはしなかったろうね」
土方:「ま、ちょいと船員を…二、三人やった程度ですから」
いつものように不愛想な口調で言った。
西郷:「やったって?!・・・殺ったのでごあんすか?あんた相変わらずでごわすな」

風邪引きに加えて、西郷はますます不機嫌になった。

沖田:「なんの、抜き身でおどしただけですよ。鬼の土方さんは函館に行ってから
    人が変わったように温厚になったんです。これもカニのおかげですよ。
    気を鎮める効能があるっていいますからね」

沖田はにこにこしている。誰がどうあれ、人が集まるのが嬉しくてたまらないのだ。

土方は甲羅を開いてまずカニ味噌をふるまった。慣れた手さばきである。
が、土方の鍋奉行としての差配はここまでであった。
もともと酒席の座持ちは不得手である。

竜馬:「う、うまい!絶品じゃ。土方さんが五稜郭に立てこもった気持ちがわかるっちゃ」
海舟:「どうだぇ西郷さん、北海の味は?わざわざ来た甲斐があったろうナ」

海舟は西郷を気遣って一番大きなカニ足を鍋から取り、目の前に置いてやった。
それを合図のように各々は酒を飲むのも忘れて、カニ食いに没頭し出した。
口をきかず、バリッ、カリカリ・・・
カニを噛み砕く音のみが部屋に充満し、
どんどん殻が積み上げられていく。

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